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24歳・就職
TOKの家族的な温かさと「強み」を
1年間の工場研修で実感大学での専攻が生かせるフィールドでエンジニアとして働きたいと思い、化学系の企業をリサーチしている中で出会ったのがTOKでした。フォトレジストという電子材料のことも初めて知ったのですが、半導体をはじめとする先端のエレクトロニクス産業に、化学で貢献できるということに魅力を感じました。新入社員1年目は、福島県の郡山工場で1年間の研修期間を過ごしたのですが、ざっくばらんで、とても家族的な雰囲気の中で、フォトレジストに関するひと通りの基本知識を身に付けました。
この工場研修では、TOKが培ってきた高純度化技術の凄さも体験しました。日々進化する微細化に対して、限界まで解像力を高めるマテリアル(材料)関連技術の側面と、限界までクリーン度を高めるプロセス(工程)関連技術の側面、この両面をセットにしてソリューションとして提案できる事がTOKの強みなのだということを、身をもって実感した1年でした。
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25歳→30歳
成功体験にやりがいを覚える一方で、
先輩との実力差に愕然工場研修が終了すると、TOKの研究開発拠点である相模事業所の先端材料開発一部に配属され、KrFレジストの開発を担当することになりました。TOKでは、5~7nmプロセスという最先端レベルの微細加工を実現するEUV(極端紫外線)レジストをいち早く開発し、トップシェアを獲得していますが、最新型のスマートフォンなどに搭載される半導体デバイスの製造に用いられるKrFレジストは、金額ベースで規模が大きい主力製品の一つ。同業他社との競争も熾烈です。
仕事の内容については、①お客様からの改良要望を受け、②レジスト(サンプル品)を設計・評価を行い、③その結果をレビュー・考察し、④改良(設計)を行う。⑤こうした社内検討経て、満足できるサンプル品が完成したら、お客様へ開発品を紹介する、というのが基本になります。
ただ単に良いものを提供するのではなく、課題となる現象が「なぜ」起きているのかを明らかにして、対策を打つ。これが私の新人時代から一貫している開発部門の基本指針なのですが、お客様にも、「こんな特性が出ましたよ」ではなく、「こういった理由で特性が伸びているのです」という説明がきちんとできることが大事。すると、「さすがはTOKさんだね」ということで、お客様の評価も高くなり、ひいては販売実績も伸びるという結果に結びつきます。それだけに、常に深い思考が要求されますが、まだ経験の浅い若手社員時代でも、それがきちんとハマり成果が出た時には、やりがいとか面白さを非常に感じたことを覚えています。一方で、評価結果をうかがいにお客様のもとに初めて出向いた際、話についていくのが精一杯で、殆ど記録が取れず、先輩が取ったメモとの差に愕然とした思い出もしっかりと残っています(笑)。
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30歳→35歳
海外における「顧客密着戦略」の先駆けとして
TOK尖端材料社に出向30歳になった年、2013年10月に竣工した韓国・仁川のTOK尖端材料社に出向し、開発部門の責任者として、海外拠点では初めてとなる、フォトレジストの開発・製造・販売事業の立ち上げに携わることになりました。TOKでは開発・製造・販売が三位一体となり、お客様の改良要望を、高いレベルで、いち早く実現することをめざす「顧客密着戦略」を基本としていますが、海外生産拠点でも国内拠点並みのパフォーマンスを実現することで顧客の支持を得ていこうという、新たな海外戦略の口火を切るプロジェクトでした。そこで国内拠点同様、開発部門を設置することで、従来行われていたような海外生産拠点と国内開発拠点間のやり取りにかかる時間的なロスを省き、現地においてもより付加価値の高い製品をスピーディに提供し、新規需要を獲得していくことになりました。
ある程度予想はしていましたが、海外での新規立ち上げの難しさは遙かにそれ以上でした。技術レベルの高い「TOKのものづくり」ができる社員は当然のことながら出向組のみ。立ち上げ当時はその人員も限られており、私自身、開発以外の業務にも追われるような仕事量の多さと、国内では当り前にできていたような簡単なことさえ満足にできないもどかしさに悩み、これに異文化環境の中での意思疎通の難しさも手伝って“疲労困憊”の毎日が続きました。しかしながら、こうした苦難の日々を経て、ようやく念願の初出荷にこぎ着けることができました。
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完全アウェイのなか、異文化の壁を乗り越え、
新規顧客の獲得を果たすそして無事初出荷を終えた頃、今度は私たちに新規顧客の開拓というビッグチャンスが訪れます。高機能の新規フォトレジストの開発を競う案件で韓国内外の8社が参加。社員全員が「絶対に取ってやろう」という強い決心で望みました。新規参入であることから、スタート時は完全アウェイ状態でしたが、サンプル開発段階では、技術的なことを担当する私とそれ以外を担当する現地社員の営業担当とで頻繁にお客様のもとを訪れ、徹底的なニーズサーベイを実施。1時間足らずで相手先を訪れ、問題があればその日のうちに対策を打ち、改良品も直ぐにお客様に届ける、そのようなレスポンスの早さで丹念にやり取りを重ねた結果、早い段階でかなり高性能な特性が出すことができました。
サンプル提出については、競合の国内企業はもちろん、韓国企業も含めて群を抜く早さ。クオリティにおいても、クライアント側の担当者から「期待を遙かに超える製品」と、“絶賛”に近い評価をいただくほどの仕上がりで、他社を圧倒しての採用となりました。この時はもちろん、開発メンバーや営業チームと共に喜びを分かち合いましたが、この経験をともにすることで、私たちも現地社員も、仕事に対する情熱なども含めて、お互いに対する理解を深めることができました。それと私の韓国語も随分とマシになりました(笑)。そして、この新規開拓チャレンジは、韓国内におけるTOK尖端材料社の知名度を一段と高める結果となりました。
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38歳・現在地
非常に重要な局面を迎える分野で
リーダーとしての新たな役割を果たす5年間の韓国勤務を終えると、原職である材料開発一部に復帰し、現在は3つあるArFレジスト開発チームの中の一つのチームで他の4名のメンバーとともに、基本的には出向前と同じ仕事をしています。以前と違うのは、サブリーダーという立場で、チームとしてのパフォーマンスを高めて成果を出すため、プランニングや方向性の決定、進捗管理などを含めて、自分で判断をしなければならない部分が増えたこと。そして相談する側から、相談される側になったこと。私のチームには工場研修を終えたばかりの入社2年目の若手社員が2名いますが、経験が浅くとも彼らなりのパフォーマンスを上手く引き出して、達成感を味わってもらい、成長につなげていくのも私の仕事と考えています。もちろん、十分な説明もせずに「これやっといて」みたいな“昔流”のやり方はもう通じません。「それをやる目的は何か」「それをやって自分にどんなメリットがあるのか」といったことをきちんと説明して、理解してもらった上でやってもらう。彼らにもプライドがあり、彼らなりのモチベーションの高め方がある――。それは韓国で学んだ貴重な経験の一つでもあります。
TOK尖端材料社のフォトレジスト事業は着実に業績を伸ばし、最近では総売上高の1割ほどを占めるようになっています。当時はそこまでの予想はつきませんでしたが、TOK全体の売上げにもかなり貢献しているということを後になって知り、「辛いこともあったが、やって良かったな」、皆の苦労が報われたなと思いました。
優れたサンプルを開発してお客様に採用いただくことは“はじめの一歩”。もちろん、この時点では利益は得られません。しかし、性能を発揮して量産されれば、確実に会社を支える礎になります。それを自ら創造できるのは開発の醍醐味の一つであり、自分自身のモチベーションを高めてくれます。そして「自分がTOKの5年後・10年後の未来を担っているのだ」という当事者意識は決して大袈裟なものではなく、常に持ち続けるべきものだと思います。
今、私たちが取り組んでいる分野は、市場シェアを拡大するうえで非常に重要な局面を迎えています。チームのリーダーとして仲間たちと協力し、重要案件の採用を一つでも多く勝ち取ること、そのための開発効率を上げていくことに全力を尽くしたいと思いますが、さらに経験や知識を蓄え、フォトリソグラフィという技術の専門家として最前線に立ち続けたいと思っています。
※掲載されている情報は、取材当時のものです。